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クリエーションの源

Rialto 79

ガラス職人 ダリオとマッテオ・ベラルディネッリ兄弟のインタビュー



水の都と呼ばれるヴェネチア。その街でガラス職人をしている兄弟がいます。ヴェネチアに昔から伝わるガラス細工を通して自分たちの表現を探求し続けている二人にとって、ヴェネチアの街や人、そこにある歴史、そして日々の生活、どれもがクリエーションの源になっているようです。


彼らが扱うガラスビーズを、翻訳者が扱う言葉に置き換えて考えてみると、翻訳に向き合うための様々なヒントが隠れているかも知れません。




ここリアルト橋のたもと、サン・ジャコメット広場のそばに、ガラスジュエリーが並ぶ一軒の小さなお店があります。年月を経て寂びた風合いをもつ1930年代の美しい木製の窓枠がはっと目を引く「リアルト79」。お店は421年に建立されたベネチア最古の教会といわれるサン・ジャコモ・ディ・リアルト教会の隣に佇んでいます。


リアルト橋にあるほかのお店と同様に創業当時から変わらない店構えはとても美しく、周りの風景とも見事に調和しています。現在、この「リアルト79」の技術と精神を受け継いでいるのは、ダリオさん、マッテオさんのベラルディネッリ兄弟です。ヴェネチアで生まれヴェネチアの美術学校で学んだ二人は見た目や性格こそ違いますが、その仲の良さや仕事にかける情熱が彼らの話から伝わってきます。ベラルディネッリ兄弟によると、このガラス事業は父アルマンドさんが1986年に始めたものだそう。当時は、年代物から世に出たばかりのものまで、とにかくいろいろな種類のガラスビーズをアルマンドさんが自分で集めたり、ムラーノガラスのマエストロたちからもらい受けたりしていたようです。アルマンドさんの妻、ルイーザ・ボルセットさんはガラスビーズの紐付け作業を担って夫を支えてきました。今でも現役だというルイーザさんの滑らかで美しい仕事ぶりには、誰もが魅了されることでしょう。

このような両親のもとで育ち、リアルトの風景をつくり出す一員として長い年月を過ごしてきたマッテオさんとダリオさん兄弟。兄のマッテオさんは主にジュエリー制作とガラスビーズ作りを、弟のダリオさんはガラスフュージングという技法で空間を彩るインテリア用品を制作し、自分の表現を追求しています。



1) まずマッテオさんにお聞きしますね。ガラスビーズを制作する仕事を始めたのはいつからですか?

そうだな、正確に何年からというのは覚えていないけど、とにかくかなり前からだね。美術学校で勉強した後、両親がムラーノガラスのマエストロたちに引き合わせてくれて、そのうちの何人かと一緒に仕事をすることができたんだ。おかげでいろいろな技法や様式に詳しくなったよ。そのうちに、輝きを放ちながらも繊細な吹きガラスのビーズが好きになっていったんだ。もちろんガラスビーズはすべて魅力的だけどね。ガラスビーズはありふれた物として捉えられがちだけど、それぞれに時代を超えた物語や歴史があり、一つ一つが地中海とベネチア、過去と現在をつなげているんだ。その壮大さに圧倒されずにはいられないよ。そこから、もっと知りたい、違う解釈をしてみたいという想いに突き動かされ、今こうして右足でガスバーナーのペダルを踏みながら手を動かし、新たな作品を制作する日々を送っているわけさ。


2) お店ではお二人が作ったビーズだけが販売されているのですか?

いや、そんなことはないよ。ムラーノ島のガラスビーズアーティストたちとは昔からずっと協力し合って仕事をしてきたし、代々続くこの伝統は続けていきたいと思っている。彼らとの交流を通してアイデアの交換や技術向上もできるし、僕の刺激になっているんだ。ベネチアという街を支えてきたのは、人と人との関わりや互いの助け合い、結束する意識で、これらを手放すなんて考えられないよ。それに、毎週ムラーノ島に行くためのいい口実にもなるしね!さっきも言ったけど、僕たちは時代物のガラスビーズも価値ある大事なものとして捉えているんだ。例えば、ロゼッタビーズというガラスビーズは断面が12の星文様でできていて、穴のあいたガラス棒を研磨して作られる。これは、マリエッタ・バロヴィエールが15世紀終わりごろに作り始めたもので、アフリカ、インド、アメリカとの交易でお金の代わりに使用されていたという歴史があり、このガラスビーズが女性の手によって作り出されたという事実にも僕は心惹かれるんだ。今では珍しくないけど、当時は本当に革新的なことだった。炉の管理は今も男性が行う場合が多い。でも、女性の役割がベネチアにとってどんなに重要かを、マリエッタという存在が示してくれている。マリエッタはガラス産業で初の女性起業家と言えるだろうね。


3) 作品のインスピレーションはどんなところから得ていますか?

そうだな……人生のすべてからだね!日々の生活はいろいろな形でインスピレーションを与えてくれる。ヴェネチアは歩いているだけで色々な刺激があるんだ。この街で暮らせて僕は恵まれているよ。周りの人からも、美術館や街のそこかしこにある芸術作品からもインスピレーションを受けるし、日々のちょっとしたニュースからイマジネーションが膨らむ時もある。僕はジュエリーを作る時、年齢、国籍、文化の違ういろいろなタイプの女性を思い浮かべながら作業をしているんだ。目指しているのは、時が経っても色あせず、身に付けた人の魅力をさらに引き立ててくれるような、ハンドメイドならではの趣のあるジュエリーさ。僕と弟は異なる素材を組み合わせたガラスビーズを作るのが好きで、店にはいろいろな種類があるよ。例えば、パピエマシェ(張子の紙細工)や金属を使ったもの。パピエマシェビーズで人気を博したものとしては、世界地図をプリントした地球儀風のガラスビーズ「エルダプフェル」(ドイツ語で「地球のりんご」)がある。これはマルチン・ベハイムが15世紀後半に手掛けたもので、ロゼッタビーズと同じ時期に作られたんだ。

今はカンディンスキーをテーマにした指輪やイヤリングにも取り組んでいて、よく近所にあるカ・ペーザロ美術館に行っては彼の作品を眺めているよ。



4) ダリオさんはいかがですか?

末っ子だったし、ガラスビーズやガラスの世界に入るのは自然な流れだったよ。いつの間にか退屈なペーパーワークも僕の仕事になっているけどね。美術学校(ダリオさんはLiceo Artistico、マッテオさんはIstituto d’Arte)も卒業したし、ムラーノ島には昔も今もずっと通い続けている。僕は、ガラスの中の物質が化学的に反応し合って色が変化する様子が好きなんだ。ガラスにはそれぞれ性格があり反応の仕方も違う。硬くて頼りがいのあるものもあれば、扱いに苦労するものもある。いずれにせよ、うまく行かない場合があってもガラスのせいではないんだ。それはむしろガラスそのものが放ついくつもの色合いを理解できていない人間側の問題なんだよ。錬金術を通して成長する機会が与えられているんだろうね。仕事をするとき、僕は温度を変え違う色を混ぜた場合にガラスがどう反応したかをノートに書き留めているんだ。そして、そのノートを必ずそばに置くようにしている。

5) マッテオさんにも聞きましたが、ダリオさんのインスピレーションはどこから来るのでしょうか?

兄と同じで、やっぱり人生のすべてからさ!家族、娘、自然、そして言うまでもなく、ヴェネチアという街からだね。僕たちは古今東西のあらゆる芸術家の作品を見ている。ベネチア・ビエンナーレや、ベネチアにある数々の美術館、コラテラル・イベント(イベントの際に開催される企画展)等から、世界で起こっていることやアートの世界の動向をさまざまな角度から知ることができるんだ。僕はポストモダン世代だから、明るく生き生きとした色使いのポップアート、洗練されたミニマリズムを表現する東洋芸術に心惹かれる。もちろん一緒に仕事をしているムラーノガラスの職人が作る作品も魅力的だよ。自分の作品が売れるといつも、購入してくれた人の家が幸せに包まれ、ベネチアを訪れたときの楽しい時間を思い出してくれるよう願うんだ。人の手によってデザインされ生み出された作品が持つ普遍性も感じてくれると嬉しいよね。


6) お二人にとって、ベネチアで暮らすということはどのような意味を持ちますか?

マッテオさん:ヴェネチア以外の場所で暮らすなんて考えられないよ!ヴェネチアで生まれ、ヴェネチアの学校に通い、家業を継いで、今は娘二人と息子一人に恵まれている。ヴェネチアは、歩いてどこへでも行けるし共同体の意識が根付いている素晴らしい街なんだ。残念ながら、昔と比べて随分と変わってしまったところもあるし、変化のすべてに賛成できるわけじゃない。それでもベネチアは僕の街で、幸い僕は仕事を通してこうした街の素晴らしさを享受できている。


ダリオさん:僕もその通りだと思う。ヴェネチア人っていうのは変な生き物で、10代の頃はヴェネチアっ子であることに抵抗を示したりもするけど、そのうちに皆、自然のゆったりとした時間が流れる海辺、きらきらと反射する水面……どれもヴェネチアにしかないものだと気付くんだ。ヴェネチアで暮らしているのは、僕が人生の中でそう選択したから。この選択が時にいばらの道となる可能性はあるけど、それもすべて自分に必要なんだと思っているよ。


マッテオさん、ダリオさん、どうもありがとうございました。私自身もヴェネチア人なので、ガラスビーズが持つ物語を知り、古代のガラスビーズが人の手に渡るまでにたどる道のりや、現代を生きるガラスビーズ職人のイマジネーションの源に思いを馳せるのはとても楽しい時間でした。


このインタビューを読んでくれた皆さん、ヴェネチアを訪れた際には是非お二人を訪ねてく下さいね。それではまたお会いしましょう!


Address 1:Ruga dei Oresi 79, 30125 Venezia

Address 2: Ramo Terzo del Parangon 506, 30125 Venezia


*本店はサン・ジャコメット教会のすぐ隣に、新しい工房はそこから徒歩1分ほどの場所、Campo Rialto Novo(San Polo, 516)にあります。


Article from NATURALLY EPICUREAN

Interviewed and Photographed by Nicoletta Fornaro

Translated by 飯田七重

Edited By ネルソン聡子

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