
皆さん、こんにちは。翻訳者のネルソン聡子です。翻訳業を生業としながらRAY translation Academy & Communityを運営およびAcademyの講師をしています。
この『Translation skills BASIC:翻訳スキルUPを目指して基本を学ぼう!』は、翻訳をするために欠かせない「考え方」や「スキル」を学ぶ12回シリーズのブログです。12回すべて読めば翻訳者になれる!というわけではないのですが(そういった謳い文句に出会ったら要注意です!)、翻訳の楽しさや難しさは十分に知って頂けると思います。例文を解説しながら進めますので、ぜひ実際に訳してみて下さい。
紙とペンの用意の用意はいいですか? では、レッツゴー!
3回目で取り上げるのは、翻訳に必要な5つのスキル(原文理解力、リサーチ力、イメージする力、文章構成・表現力、校正力)の中の「リサーチ力」です。このリサーチ力、侮ってはいけません。リサーチの質が翻訳の質に直結するのです! 「調べる」というと、「〇〇(英単語)、意味」と検索スペースに入力して意味を調べる、ということが多いかと思いますが、それはリサーチのごくごく一部に過ぎません。
まず、リサーチをする際に覚えておきたいのは、下記の3つです。
・検索欄に入れるワードを工夫する(日本語だけで探せる情報はかなり限られています)
・文字だけで検索しない(音声や画像、動画も活用!)
・信用性の高いリソースを見つける(個人のブログやWikipediaはなど主観が入るのでNG)
そして、リサーチには大きく分けて下記の3つがあります。
1.名前や固有名詞
2.言葉の意味
3.背景知識
今回は1の「名前や固有名詞」の中の「名前」を取り上げます。
と、その前に少しだけ、そもそも「なぜ名前や固有名詞のリサーチをするのか?」ということをお話しておくと・・・もちろん、きちんとした表記をするためですが、発注元がチェックをする時のためでもあります。翻訳を発注元(翻訳会社等)から受けると、その発注者へ納品をします。納品したあとは発注元がチェック作業をします。誤訳はないか、名前や他の表記の仕方に間違いはないかを確認するのです。その時に必要になる/役に立つのが、翻訳者のリサーチ結果なのです。
例えば、「Mike」「John」などの名前は、英語を少し知っている人であれば「マイク」「ジョン」と読む/表記することは分かりますが、こちらの名前はどうでしょう?
Sarah Hrisak
名字の「Hrisak」が曲者なのですが、皆さんだったら、どのようなカタカナ表記で訳出し発注元に納品するでしょうか。
Hが最初にあるから「ハライザック?」
Hは発音しない国もあるから「リザック? ライザック?」
それとも「ヒリザック?」
色々浮かんでくるかもしれませんね。ですが、ここで「もしかしら、こうかも?」という想像で訳してしまうのはNGです。想像で訳すというのは「創作」=自分で勝手に名前の読み方を決めてしまうことになります。そのため、なぜその表記にしたのかという根拠となるリソースをコメント欄(書式は実務、出版、映像でそれぞれ異なります)に必ず記載するようにします。
では皆さんも一緒に、この「Hrisak」をどのように読むか/表記するか、一緒にリサーチをしてみましょう!
*ちなみにSarah Hrisakさんは、Equal Exchangeという企業で働いている方の名前です。
まず、最初に「Hrisak 名前 読み方」と入れてみましょうか。
ですが・・・、驚いたことにGoogleでは1件も見つかりません。
*「Hrisak 名前 読み方 に一致する情報は見つかりませんでした。」と出てきてしまいます。
次は「Hrisak 発音」。
発音の仕方のサイトが出てきました。どのような発音をしているか聞いてみて下さい。
⬇
https://ja.howtopronounce.com/hrisak
「フライザック?」「ヒライザック?」・・・微妙なところですね。
*このような発音を調べられるサイトも便利ですが、膨大な情報が溢れる今の世の中では、それだけに頼るのは危険です! リサーチをする際には、必ず複数の情報源を参考にするようにしましょう。
さて、ここまで「文字」で検索をしましたが、ここで活躍するのが「動画や音声(発音サイトではないもの)」の検索です。Googleには動画の検索機能がありますよね。それを活用します。
「Sarah Hrisak」と検索ワード欄に入力し、動画で検索をして下さい。
すると、このサイトが一番最初に出てきます(2023年10月現在)。
⬇
https://www.youtube.com/watch?v=13OzvwqBhNg
これは、Sarah Hrisakさんがインタビューを受けている音声なのですが、1:16あたり~インタビュアーの方が直接「この名字はどう発音するんですか?」と質問しています(ぜひ聞いて確認してみてください)。
Sarah Hrisakさんの答えを聞いてみますと・・・
「リザック」
と、はっきり答えています。
当の本人が言っているので間違っているはずはないですね。
(他の言語の読み方をしたら違うことはあるかもしれませんが)
ここまで調べて、最終的に「リザックでOK!」ということになるわけです。
そして、この動画のURLを添付して納品をします。
*発音が始まる箇所から音声が流れるように設定をして添付しましょう。そうすれば、チェックする方がすぐにリソースへたどり着けます。
外国人の名前の読み方で定訳がない時には、セミナーやインタビュー映像(音声)をまずは探してみましょう。司会者やインタビュアーの人が「今日のゲストは〇〇さんです」と紹介する場合があるので、発音が聞ける可能性が高いと思います。
その他には、対象となる名前の人の出身を調べて発音記号を見てみるという方法もあります。ドイツ語だったら、ドイツ語の発音記号を見ると、どういう発音をするかが分かりますよね。
今回は「名前や固有名詞」のリサーチを取り上げました。やってみると「な~んだ」と思うかもしれませんが、このような方法を自分で選択できるかどうかが大事になってきますので、ぜひ色々な方法でリサーチをしてみてください。翻訳者自身が自分の調べたものに納得し自信を持ち納品できることが、何より大事ですので。
次回は「言葉の意味」のリサーチについてお話します!
では、また次回の『Translation skills BASIC:翻訳スキルUPを目指して基本を学ぼう!』でお会いしましょう!
RAY translation Academyでは、翻訳者に1対1で相談ができる「Private session」を行っています(課題の添削、翻訳レベルの診断もあり)。ご興味のある方はこちらから詳細を御覧ください。
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