みなさんこんにちは。映像字幕翻訳者のNonaといいます。『字幕の世界へようこそ!』では、普段私が見ている映像作品から、翻訳者の視点で「すばらしい!」と思った字幕を紹介していきます。英語や字幕翻訳を学習中の方に楽しく学んで頂けたら嬉しいです。
原文の意味を少し(ときには大胆に)意訳をしているけど、その状況に最もふさわしいセンスがキラッと光る字幕を、一緒に楽んでいきましょう。
さて、今回は映画「ザ・ロストシティ」より。字幕翻訳を担当されたのは、栗原とみ子さんです。
歴史を愛するロマンス小説家ロレッタのもとに失われた財宝を狙う大富豪が現れ、ロレッタなら謎の暗号を解読できるという理由で拉致されてしまいます。その現場を見ていたモデルのアランが救出にむかいますが、実は彼、見た目に相反してめちゃくちゃ弱いのです。そこでジャックという男に助けを求めます。
問題のシーンは、拘束されているロレッタが救出にきたジャックと初めて対面する場面です。ジャックの顔を見て、いきなりこう言います。
「Why are you so handsome?」
直訳するなら、「なんでそんなにハンサムなの?」ですね。拉致されて、拘束までされているのにどんだけ余裕なんだって話です。でも、しかたないんです。ジャックを演じているのは、あのブラッド・ピットなのですから。訳文を考えるとき、ジャックがブラピであるということを念頭にいれておいたほうが、実際の字幕に近い訳文が浮かぶかも……?
ロレッタ役はサンドラ・ブロックですので、もちろんちょっとふざけてます。
実際に話している時間は約0.9秒なので、使用できる文字数は3~5文字くらいでしょうか。
では、早速やってみましょう!
「イケメン」
そのままですね。でも、ちょっと冷静すぎる気がしませんか? ロレッタは見知らぬ男に拉致されて、謎のジャングルに監禁状態なわけです。そこにまたしても見知らぬ男が「救出にきた」と登場して、やや動揺しているわけです。動揺しているけど、あまりにもハンサムだったので思わず口から「なんでそんなハンサムなの?」って出ちゃったわけですよね。「イケメン」だと、なんとなくポーッと見とれちゃっているような印象を抱いてしまいます。実際の口調とは、合わないですね。
「やだ 男前!」
これなら、思わすポロッと本音が出ちゃった感がでているでしょうか。
ジャックがロレッタの目線に合わせてかがんでいるので、顔が近い状況なので「やだ」といれることでドキッとしちゃった感じも伝わりそうな気がします。真顔でふざけるのが得意なサンドラのおちゃめな雰囲気もでているかな?
「男前すぎる」
原文と同じように直球で攻めてみました。原文には「すぎる」のニュアンスはありませんが、なんといっても相手はブラピですから、「男前すぎる」くらい強気な字幕でも問題なさそうですね。ブラピの顔面になんとかしてもらいましょう。
では、いよいよ実際の字幕を見てみましょう。
「爆イケ」
そうきたかー! そんな言葉自体、思いつきませんでした。文字数も短くて済みますし、造語ではありますが誰が読んでも意味は通じますよね。これは、おそらく相手がブラピ級のイケメンじゃないと使えない訳語ですよね~。話者がサンドラだというのもピッタリですね。これが例えばメリル・ストリープのように貫禄のある俳優さんだったら、「爆イケ」はちょっと無理があるように思えます。
演者の特徴までしっかり捕らえた、すばらしい字幕です。しかもおもしろい。
これ、原文は疑問形なのでジャックは「なんでそんなハンサムなの?」という質問に律儀に答えてくれています。その答えも最高なので、ぜひ本編を確認してみてくださいね(NETFLIXにて配信中)。
頭をカラッポにして楽しめる、最高のポップコーンムービーですので、ぜひブラピの爆イケぶりを堪能してください。登場シーンから爆イケっぷりが炸裂してて、もはやズルいです。
みなさんは、どんな字幕をつけましたか? 「これこそは!」という名訳を生みだした方は、ぜひTwitterで引用リプなどをつけて教えてくださいね。
それでは、また来月のトピックをお楽しみに!!
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