みなさんこんにちは。映像字幕翻訳者のNonaといいます。『字幕の世界へようこそ!』では、普段私が見ている映像作品から、翻訳者の視点で「すばらしい!」と思った字幕を紹介していきます。英語や字幕翻訳を学習中の方に楽しく学んで頂けたら嬉しいです。
原文の意味を少し(ときには大胆に)意訳をしているけど、その状況に最もふさわしいセンスがキラッと光る字幕を、一緒に楽んでいきましょう。
さて今回は、みんな大好きハリー・ポッターシリーズから紹介いたします。
ピックアップするのは、第2作目となる「ハリー・ポッターと秘密の部屋」よりロンのセリフです。字幕翻訳を担当されたのは、あの戸田奈津子さん。
ホグワーツの2年生となったハリーたちですが、生徒たちが次々と石化して発見されるという不穏な事件が続きます。そして物語の中盤で、とうとう秘密の部屋が開かれて生徒の1人が連れ去られてしまいます。その生徒とは、ロンの妹のジニーでした。ジニーを救うため、『闇の魔術に対する防衛術』の授業を受け持つロックハート先生のもとへ駆けつけます。しかし彼は荷物をまとめて逃げ出す寸前でした。実はこの先生、他人の手柄を横取りしてのし上がったとんでもない人物だったのです。
そんなロックハート先生を連れて秘密の部屋の入り口へ向かうハリーとロン。2人は先生に杖を突きつけ、先に入り口を下りるように言います。臆病な先生は当然抵抗します。そして「なぜ私を先に行かせるんだ?」と尋ねるわけです。
そこで、問題のセリフです。
先生にビシッと杖を突きつけたまま、ロンが言います。
「Better you than us.」
直訳すると「ぼくたちより先生の方がマシだ」ですね。何が待ち受けているのかわからない秘密の部屋に突入するわけですから、当然身の危険を感じているわけです。つまり「犠牲になるなら、ぼくたちより先生の方がいい」と言っているんですね。なかなか言いますね、ロン。
実際に話している時間は、約1.20秒でした。シーン変わりを前後にはさみますので、実際のセリフよりも少し長めに尺をとることができます。(詳しく知りたい方は、ぜひ今後RAYで開講する字幕翻訳の講座を受講してみてくださいね!)このシーンでは4~5文字が使用できます。
では、早速やってみましょう!
「身代わりさ」
言いたいことはわからなくもないですが、これでは秘密の部屋でなにかしらの被害に遭うことが決定しているように読めてしまいます。それに「誰の」、「何のための」身代わりなのかが不明瞭です。とてもじゃないですが名字幕とは言えませんね。
「先生でしょ」
こんどは思いきって意訳してみました。「先生なんだから、生徒より先に行くのは当然だ」というロンのセリフには合っています。しかし、原文に比べるとかなりマイルドで、ロンが先生のことをなんとも思っていないというクスっと笑えるニュアンスが伝わりません。それに発言の意図もややわかりにくいですね。
「危険だから」
ニュアンスとしては原文からも離れていませんし、危ない場所に先導して行きたくないというロンの気持ちも出ています。しかし、非常に味気ない字幕になってしまいました。至極当然であり、おもしろみもない退屈な字幕ですね。間違ってはないけど……といった感じです。
さあ、いよいよ実際の字幕を見てみましょう。
「下見役だよ」
なるほどー!!と、思わず膝を打つ字幕ですね。「危険な場所だから先に行け」という無茶振りっぷり(仮にも先生なので、本来は無茶振りでも何でもないんですけどね)が見事に表現されています。未知の場所へ踏みこむ前の緊張感、恐怖、そして先生への見事なまでの無関心っぷりが凝縮された字幕ではないでしょうか。
みなさんは、どんな字幕をつけましたか? ファンの多い作品ですので、愛情たっぷりの名訳が生まれているかも。「これこそは!」という名訳を生みだした方は、ぜひTwitterで引用リプなどをつけて教えてくださいね。
魔法用語など、難しい言葉も多い「ハリー・ポッターシリーズ」ですが、みなさんもステキな翻訳の魔法をかけてみませんか?
それでは、また来月のトピックをお楽しみに!!
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