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"Fuckin’ agents, man."


みなさんこんにちは。映像字幕翻訳者のNonaといいます。『字幕の世界へようこそ!』では、普段私が見ている映像作品から、翻訳者の視点で「すばらしい!」と思った字幕を紹介していきます。英語や字幕翻訳を学習中の方に楽しく学んで頂けたら嬉しいです。


原文の意味を少し(ときには大胆に)意訳をしているけど、その状況に最もふさわしいセンスがキラッと光る字幕を、一緒に楽んでいきましょう。



さて、今回は「ゲットスマート」より。字幕翻訳を担当されたのは、藤澤睦実さんです。2008年公開の映画で、優秀すぎるがゆえにエージェントになれなかった男、マックスウェル・スマートが主人公です。

紹介する字幕は、ドウェイン・ジョンソン演じるコードネーム“23”のエージェントが、開発部員が莫大な費用と時間をかけて制作したハエ型スパイグッズを叩き壊してしまう場面より。試作品を壊された開発部員が、ボソッと文句を言います。あくまで23には聞こえないように、仲間だけに聞こえるようにつぶやいてムスっとしている感じですね。ムキムキの23に聞かれるのは怖いけど、文句は言いたい、ということなんでしょうね笑。ちなみに、この気は弱いけど頭脳派な開発部員を演じるのは、日本人俳優のマシ・オカです。


実際の台詞がこちら。


「Fuckin’ agents, man.」


直訳すると「クソエージェントめ」といったところでしょうか。

実際に話している時間は1.7秒ほどです。使用できる文字数は5から8文字くらいでしょうか。


では、早速やってみましょう!


「あのクソ野郎」



まあ、普通の字幕ですね。ただ、マシ・オカのマイルドな見た目に対して、口調が強すぎるかなという印象を受けます。原文もFワードでかなり強いのですが、実際の映像を見ると、あくまで陰口というか、面と向かって言う勇気はないけど、仲間の前だから少し気が大きくなっているイメージでしょうか。このままでも悪くはないですけど、特に面白みもないですね。


「何するんだよ」



これまた、普通すぎる字幕ですね。いや、いいんですよ、普通で。怖いから本人に直接は言えないけど、ぶつぶつ文句言っている感じは出ているかもしれません。


「筋肉バカめ」



壊した相手がドウェイン・ジョンソンということで、ちょっと思い切って意訳してみました。マッチョで男らしいエージェントに憧れや嫉妬が入り交じった感情を抱いていますが、エージェントの仕事を自慢の知能で支えているという自負も感じられるような字幕になっていますでしょうか。ただ、筋肉質な人が見たら、ちょっとだけ嫌な気持ちになってしまうかもしれませんね。たとえ意図していなくても、不用意に人を傷つけてしまう可能性のある言葉には敏感にならなくてはいけません。


では、いよいよ実際の字幕を見てみましょう。


「“23”逝ってよし」


ああ、すごく“ぽい”!!

原文からは大きく離れていますけど、マシ・オカ演じる開発部員の気弱な感じといい、マッチョなエージェントに強くでられない感じもうまく表現されています。それでいて拭えないこの“オタクっぽさ”。良くも悪くも、ピリッとしたスパイスが効いた字幕ですよね。

ただ、やはり一時的にネット界隈で流行した「逝ってよし」という言葉を字幕に使用するのは勇気がいるかなとも、個人的には思います。2008年当時は新しい言葉で、頭のいい機械オタクっぽさを的確に表現した訳文だと思いますが、令和のいま、若者がこの映画を観て、どう感じるでしょうか? 訳者の意図したとおりに解釈してくれるでしょうか? 何も引っかからずに、映画を楽しんでくれるでしょうか?

「これは!」と震えるほどしっくりくる訳語でも、それが流行語である場合は、慎重に訳語を選びたいですね(もちろん、この字幕を否定しているわけではありません! 個人的に大好きな字幕ですし、キャラクターにもピッタリです。ただ、何でもかんでも流行語を使用するのは要注意というだけです)。


みなさんは、どんな字幕をつけましたか? 「これこそは!」という名訳を生みだした方は、ぜひTwitterで引用リプなどをつけて教えてくださいね。


それでは、また来月のトピックをお楽しみに!!

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