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"I just didn’t know she’d be so smoky."


みなさんこんにちは。映像字幕翻訳者のNonaといいます。『字幕の世界へようこそ!』では、普段私が見ている映像作品から、翻訳者の視点で「すばらしい!」と思った字幕を紹介していきます。英語や字幕翻訳を学習中の方に楽しく学んで頂けたら嬉しいです。


原文の意味を少し(ときには大胆に)意訳をしているけど、その状況に最もふさわしいセンスがキラッと光る字幕を、一緒に楽んでいきましょう。



さて、今回は「マイ・エレメント」より。字幕翻訳を担当された方のお名前は、残念ながら確認できませんでした。すばらしい翻訳だったので、ご存じの方がいらっしゃいましたら教えてください。

火、水、土、風のエレメントたちが暮らすエレメント・シティ。家族のために火の街から出ることなく父の店を継ぐ夢に向かって頑張っていた火の女の子エンバーは、ある日偶然、水の青年ウェイドと出会います。

紹介する字幕は、エンバーがウェイドの母親に紹介されるシーンから。「息子は、あなたに夢中なのよ」と、余計なことを言ってウェイドに怒られたあと「熱を上げてるでしょ 母親には分かる」(こちらの字幕もヒントにしてくださいね!)と返したあとの母親の台詞です。


実際の台詞(歌詞)がこちら。


「I just didn’t know she’d be so smoky.」


直訳すると「こんなに素敵な女性だったとはね」といったところでしょうか。Smokyは、魅力的な人を褒める際に使われる単語ですが、ここで注目してほしいのは、エンバーのエレメントが火であるということです。確実に火からあがる煙のsmokeと絡めた言葉遊びですね。ちなみに、この台詞を言い終わったあとに「ゴホゴホ」と煙で咳きこむ振りをして笑いを取っています(エンバーは、全力の愛想笑いですが)。

実際に話している時間は2.7秒ほどです。使用できる文字数は8から10文字くらいでしょうか。


では、早速やってみましょう!


「アツアツですこと」



これだけ見ると、火の熱さと恋のアツさがかかっていて悪くないんじゃない?と思われるかもしれませんが、実はダメなのです。この段階では、エンバーはウェイドの気持ちに応えていないからです。きっとエンバーも好きなんだろうなと思わせる仕草や発言はあるものの、まだ二人は友人関係で、ウェイドのお母さんがやや暴走しているだけなのですね。なので「アツアツ」は避けたいところ。


「こっちまで火傷しそう」



前の「熱を上げてる」ともつながるので、その熱で近くにいる母親のほうが火傷しそう、という字幕になりました。ただ、これだと直後の咳とつながらなくなってしまうんですよね。これだと、見ている人が「なんで咳をしたの?」となってしまうので、字幕として成立していません。


「恋の炎が燃えてるわね」



ぱっと見は問題なさそうなんですけど、エンバーは、見た目もメラメラ燃えている炎そのものなんですよね。なので、ここで「炎」とするのは、あまりにも芸がないなという感じです。しかも直前の「熱を上げてる」とも少し被っているので、これではプロの翻訳者らしからぬ字幕だと言われても反論できません。


では、いよいよ実際の字幕を見てみましょう。


「身を焦がすほどの恋ね」


シンプルだけど、なかなか思いつかない字幕ですよね。

「熱を上げている」から「身を焦がす」のつながりもすばらしいですし、その後の咳きこみも完璧にカバーしています。身を焦がして、上がった煙で咳きこんだんですね。

ここ以外にも、本作には本当に多くの言葉遊びが登場します。ここで紹介するとネタバレになってしまうものもありますので、ぜひ本編を見て探してみてくださいね。字幕も物語も映像も、とにかく見応えバッチリです。個人的には、ウェイドのぷるぷるした感じが、冷たくて気持ちよさそうで見入ってしまいます。なぜか、おいしそうにも見えるんですよね~笑。


みなさんは、どんな字幕をつけましたか? 「これこそは!」という名訳を生みだした方は、ぜひTwitterで引用リプなどをつけて教えてくださいね。


それでは、また来月のトピックをお楽しみに!!

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