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I can call it “Holy Smokes.”


みなさんこんにちは。映像字幕翻訳者のNonaといいます。『字幕の世界へようこそ!』では、普段私が見ている映像作品から、翻訳者の視点で「すばらしい!」と思った字幕を紹介していきます。英語や字幕翻訳を学習中の方に楽しく学んで頂けたら嬉しいです。


原文の意味を少し(ときには大胆に)意訳をしているけど、その状況に最もふさわしいセンスがキラッと光る字幕を、一緒に楽んでいきましょう。



さて、今回はドラマ「ブルックリン ナイン・ナイン」シーズン3の第3話より。エンドロールまで確認したのですが、字幕翻訳者の方のお名前は見つかりませんでした。すばらしい字幕なのに残念です……。

ニューヨーク警察99分署を舞台にしたコメディドラマで、毎回すばらしい字幕が登場します。30分尺のドラマで、とにかく笑える最高のドラマです。

問題のシーンは、主人公のおさわがせ警察官ジェイク・ペラルタの台詞です。前衛的なアート作品を見て、これがアートならなんでもアートだと不満を漏らします。タバコの吸い殻で作ったキリスト像だってアートになるのかと言ったあと、マジで売れるかも……と魔が差すシーンです。なんだかバチがあたりそうですが、そんなの関係ねえ精神なのがジェイクなのです。


実際の台詞がこちら。


「I can call it “Holy Smokes.”」


直訳するなら、「題名は“聖なるタバコ”」ってところでしょうか。今回は、もはや原文の時点で名言なんですよね。しかもこれ、真顔で言ってますから。

実際に話している時間は約1.9秒なので、使用できる文字数は6~8文字くらいでしょうか。


今回はHoly Smokesの訳語にフォーカスしたいので、実際の字幕“題名は「」”はそのまま使用しますね(「」は文字数に含まれません)。つまり、訳語に使える文字数は3~5文字です。難しい!


では、早速やってみましょう!



題名は「イエス・煙」



うーん、どうでしょう。ギリギリ悪くはないかなぁ……ってところでしょうか。でも、そのまんますぎておもしろくはないですね。「ふーん」っていう感想しかでてきません。タバコとキリストとという遠い存在をかけ合わせたクスッと笑えるジョークをいかしきれてませんね。


題名は「聖なる煙」



ほぼ直訳ですね。ただ残念ながら、吸い殻なので煙はでないんですよね~。雰囲気も文字数もいいのですが、やはり吸い殻である以上、“煙”の文字は使いにくいです。火がついているタバコで作ってくれてたらよかったんですけどね。それなら、まさに「聖なる煙」です。ちょっと迷惑ですけど。


題名は「煙の信者」



キリストそのものではなく、キリスト教の象徴としてとらえてみました。ただこちら、一見すると訳語としては問題なさそうですが、実際の仕事では躊躇してしまう字幕です。なぜだかわかりますか?

気になるのは、キリスト教が実在する宗教だということです。大勢の方が信仰している宗教で、キリスト像もとても大切なものですよね。「信者」という言葉も、軽々しく使用していいものではないように感じます。宗教やその象徴を扱うときには、特に慎重に訳語を選ぶ必要があります。原文の意図に反して、視聴者に不快感を抱かせてしまうかもしれません。英語圏の作品を訳す際に避けては通れないのが「キリスト教」です。正しい知識と慎重さが必要だなと、宗教関連の台詞を扱うたびに感じています。


では、いよいよ実際の字幕を見てみましょう。


題名は「吸世主」(吸の字に傍点)


うわー最高だーーー!ってなりませんか? キリストを救世主という言葉に変えて、さらにタバコの吸い殻なので「吸世主」としたわけですね。まさに天才の仕業です。どんな思考回路で、どれだけ悩んでHoly Smokesが吸世主になったのか、そしてその訳語を思いついたときの気持ちを翻訳者の方に伺いたいです。私だったら、こんな訳語がひらめいたら舞いあがってニヤニヤしちゃいそうです。もしくは、ふつうに「天才!」って声にだしそうです。はじめてこの字幕を見たとき、興奮しすぎて3回くらい巻き戻しました。何度見ても名字幕です。


みなさんは、どんな字幕をつけましたか? 「これこそは!」という名訳を生みだした方は、ぜひTwitterで引用リプなどをつけて教えてくださいね。


それでは、また来月のトピックをお楽しみに!!

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