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"Happily ever after was never meant to be."


みなさんこんにちは。映像字幕翻訳者のNonaといいます。『字幕の世界へようこそ!』では、普段私が見ている映像作品から、翻訳者の視点で「すばらしい!」と思った字幕を紹介していきます。英語や字幕翻訳を学習中の方に楽しく学んで頂けたら嬉しいです。


原文の意味を少し(ときには大胆に)意訳をしているけど、その状況に最もふさわしいセンスがキラッと光る字幕を、一緒に楽んでいきましょう。



さて、今回は実写版「ピノキオ」より。字幕翻訳を担当された方のお名前は、確認できませんでした。

誰もが知る名作「ピノキオ」を名優トム・ハンクス主演で実写化した本作は、映像も音楽も美しくて、映画っていいなあと心から思わせてくれます。

紹介する字幕は、映画冒頭でゼペットがピノキオをつくりながら歌っているシーンから。

悲しい過去をにおわせる歌詞と、美しいメロディが心に響きます。


実際の台詞(歌詞)がこちら。


「Happily ever after was never meant to be.」


直訳すると「“めでたし めでたし”なんて、ありえなかった」といったところでしょうか。亡くしてしまった我が子との思い出を振り返りながら、でも幸せな時間はつづかなかった……と嘆いているシーンです。トム・ハンクスの演技が非常に繊細で、すべての事情を説明しなくてもゼペットの気持ちが伝わってくるんです。うごかないピノキオに、こちらまで胸がギューッとなります。

歌っているので、実際に話している時間は6秒ほどと長めです。使用できる文字数は24~25文字くらいでしょうか。歌唱シーンなので、無理してギリギリまで文字数を使う必要もないかもしれませんね。

実際の字幕では「Happily ever after」と「was never meant to be.」で2枚の字幕になっているので、そちらに合わせてやってみましょう!


「“めでたしめでたし”なんて」「この世界には存在しなかった」



まあ、可もなく不可もなく……といったところでしょうか。ゆっくりした歌なので、あまり字幕が長いと冗長に感じてしまうかもしれません。次は、少し短めの字幕になるように意識してみます。


「幸せな結末は」「待っていなかった」



短くなりましたね。でも、ただ短くすればいいってもんじゃありません。

これでは味気なくて、さっぱりしすぎているように感じてしまいます。ゼペットの切ない歌い方と、心に響くメロディが台無しですね。個人的には、歌唱シーンの翻訳は、普通に話している時の字幕よりもリズムや字面のきれいさなどを、より強く意識しています。

今回も字幕も、決して悪くはないかもしれませんが、名訳とは言いがたい“普通”の字幕ですね。これでは、見ている人の心はつかめません。


「ハッピーエンドなんて」「期待するだけ無駄だった」



うーーーん、微妙!! 原文の「Happily ever after」というのは、とても呑気で現実離れした世界の言葉でしかないんだ、というゼペットの絶望にも近い気持ちが表現しきれていないように感じます。


では、いよいよ実際の字幕を見てみましょう。


「"いつまでも幸せに"は」「しょせん幻想だった」


ああ、なんて切ない。字幕を読んでいるだけで涙が出そうになります。

そして、そうそう「Happily ever after」は「いつまでも幸せに暮らしましたとさ」だ!!と膝を打ちました。日本人にも馴染みのある一文をうまく字幕に落とし込んでいて、さらにはその一文から連想される幸せいっぱいのおとぎ話を、次の字幕で一気に現実の世界に変えてしまう容赦ないほどにすばらしい字幕ですね。

ゼペットが抱いている、諦めにも似た感情が、見ている人の胸を締め付けます。

実写版「ピノキオ」に対しては様々な意見があるようですが、これはこれで「新しいピノキオ」なのかなと私は思いました。なにより、心を授けられて動けるようになったピノキオのかわいいこと!!!

もちろん、ファウルフェロー様の完成度も高いです。

ほかにも原文と同じようにちょっとした言葉遊びがちりばめられていたり、クスっと笑えるイディオムを巧みに訳していたりする作品ですので、ぜひ注目してみてください。


みなさんは、どんな字幕をつけましたか? 「これこそは!」という名訳を生みだした方は、ぜひTwitterで引用リプなどをつけて教えてくださいね。


それでは、また来月のトピックをお楽しみに!!

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