みなさんこんにちは。映像字幕翻訳者のNonaといいます。『字幕の世界へようこそ!』では、普段私が見ている映像作品から、翻訳者の視点で「すばらしい!」と思った字幕を紹介していきます。英語や字幕翻訳を学習中の方に楽しく学んで頂けたら嬉しいです。
原文の意味を少し(ときには大胆に)意訳をしているけど、その状況に最もふさわしいセンスがキラッと光る字幕を、一緒に楽んでいきましょう。
さて、今回は大ヒット映画「グレイテスト・ショーマン」から。はじめて映画館でみたとき、字幕のかっこよさに惚れ惚れして、思わず4回も映画館で鑑賞してBlu-rayまで買ってしまった思い出の作品です。字幕翻訳は石田泰子さんが担当されています。
ピックアップする字幕は映画の終盤に登場します。ヒュー・ジャックマン演じる主人公のバーナムが、ザック・エフロン演じるフィリップに帽子とステッキを手渡し、主役の座を譲ります。舞台では団員たちのパフォーマンスがつづくなか、自分は引退して娘たちのそばにいると伝えるシーンですね。次の世代にバトンが渡される、感動的な場面です。
そこで、バーナムがこう言います。
「The show must go on.」
ミュージカル映画などでは、ある意味お決まりのセリフかもしれませんね。
数々の映画に登場するセリフなので、十人十色、さまざまな訳があてられてきたことでしょう。そのなかでも、今作の字幕は別格だと思っています(個人の感想ですよ)。とにかくかっこよくて、2時間近くひたっていた映画の世界そのままで……ああーー最高!!と叫びたくなるような字幕です。実際に話している時間は、シーン変わりを含めても1.5秒ほどと短いです。使用できる文字数は4~8文字くらいでしょうか。
では、早速やってみましょう!
「ショーを続けろ」
そのままですね。可もなく不可もなし。ですが、やや冷たい感じがしてしまいますね。団長から団員への命令のようにも読めてしまいます。この段階でバーナムとフィリップは同等のパートナーですから、上下関係が出てしまうような訳し方は避けたいところ。
「いいぞ」
なんとなく、「最高だ」よりは何か別の目的があるんだぞ、という雰囲気はだせていますかね? しかし、やはり「何がいいのか」が明確に伝わらないので誤解を招きかねない字幕です。これから雪山を登るのを楽しみにしているのかな?と思ってしまう視聴者もいるかもしれませんね。
「ショーの途中だぞ」
うーん、悪くはない……ですか? でも、ショーを抜けてきたのはバーナムのほうだし、彼にこの言葉を言わせるのは無理があるような気もしますね。勝手に抜けて、なんやねんおまえ!となりかねませんね。
「君の舞台だ」
ちょっとだけ、よくなりましたか?? でも原文から大きく離れてしまいました。話の流れやバーナムの行動を見れば、あきらかに主役の座を譲っているので問題ないようにも思えますが、ほかのパフォーマーもいるので「君の」と限定してしまうのは、作品の意図からそれてしまうかもしれませんね。
さあ、いよいよ実際の字幕を見てみましょう。
「幕は開いてるぞ」
かっこいい!!!!! とにかくかっこいい!!!!!!
はじめてこの字幕をみたとき、あまりの衝撃で震えたのを覚えています。とても自然で、原意からも離れていない100点満点の字幕ですよね。簡単に思いつきそうだと感じるかもしれませんが、なかなか出てこない訳だと思います。もう自分は表舞台から退くのだという覚悟と、ここまで築きあげたショーを受け継いでほしいというバーナムの意思が、短い字幕のなかにしっかり反映されています。
「グレイテスト・ショーマン」は、最初から最後まで字幕を紹介したいくらいの作品なので、未鑑賞の方はもちろん、鑑賞済みの方も今度は字幕に注目して見てもらいたいです。
とくに歌詞字幕のかっこよさときたらもう……!!
いつの日か、こんな字幕をつけられる訳者になるべく日々精進していきます!
もちろん字幕だけでなく、ストーリーや楽曲がすばらしい作品ですので、多くの方に見ていただきたい作品です。ヒュー・ジャックマンがグレイテスト・ヒューマンすぎるんですよねえ。
みなさんは、どんな字幕をつけましたか? 「これこそは!」という名訳を生みだした方は、ぜひTwitterで引用リプなどをつけて教えてくださいね。
それでは、また来月のトピックをお楽しみに!!
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