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"Waste not."


みなさんこんにちは。映像字幕翻訳者のNonaといいます。『字幕の世界へようこそ!』では、普段私が見ている映像作品から、翻訳者の視点で「すばらしい!」と思った字幕を紹介していきます。英語や字幕翻訳を学習中の方に楽しく学んで頂けたら嬉しいです。


原文の意味を少し(ときには大胆に)意訳をしているけど、その状況に最もふさわしいセンスがキラッと光る字幕を、一緒に楽んでいきましょう。



さて、今回は大ヒット映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」から。字幕はレジェンド戸田奈津子さんです。


提督の娘エリザベス・スワンと、少年時代から彼女に恋い焦がれている青年ウィル・ターナーが暮らす港町に、海賊ジャック・スパロウが現れます。さっそく騒動を起こして捕まっていたジャックですが、その夜、海賊船ブラックパール号が町を襲います。そして、なんとエリザベスを連れ去ってしまうのです。ブラックパール号の船員たちは金貨を盗んだことにより、不死の呪いをかけられていました。その呪いをとくためにエリザベスの血が必要だと思いこみ彼女を連れ去ったのです(本当に必要なのは、海賊の父親を持つウィルの血なんですけどね。長くなるので割愛します!)。ウィルは海賊であるジャックの協力を求め、エリザベスを探すために海にでます。


問題のシーンは、海賊が呪いを解こうとするシーンです。船長のバルボッサはナイフを握り、エリザベスを押さえつけます。殺されるのだと思っているエリザベスですが、実際には手のひらをサクッと切っただけ。拍子抜けしたエリザベスは、思わず尋ねます。

「これだけ?」

そして、バルボッサがニヤっと笑って答えるのです。


「Waste not.」


バルボッサは悪役なんですが、めちゃくちゃいいキャラで憎めないんです。

この段階では「エリザベスを殺さずに呪いをとこう」という意図があるわけですね。エリザベスはまだ若く、とても美しいので「呪いをとくために殺してしまうのはもったいない」といった趣旨の発言です。実際に話している時間は、シーン変わりを含めて約1.5秒ほどですので、使用できる文字数は4~8文字くらいでしょうか。


では、早速やってみましょう!


「無駄は省略だ」



そのままですね。これでは何が「無駄」なのか、いまいちわかりません。エリザベスを殺すことが無駄な労力であると考えて、楽な方法を選んだ?と解釈する視聴者もいるかもしれません。それでは、バルボッサの憎めないキャラクター性が損なわれてしまいます。恐ろしい海賊なのに、心から嫌いになれない魅力を反映させたいところですね。


「無駄な殺しはしない」



ちょっとよくなりましたか? 「無駄な」が入ることによって、必要ならば簡単に命さえ奪ってしまう海賊の恐ろしさも伝わっています。ただ、残念なことに9文字なんです。短いシーンなので、人によっては字幕を読み切れない可能性があります。それでは字幕の意味がなく、完全な字幕とはとても言えないですよね。というわけで、これもアウト!


「これで十分だ」



悪くはない、といったところでしょうか。殺されると思いこんでいたエリザベスが、この台詞を聞いたときの安堵感も想像しやすいですね。しかし、残念な点がひとつだけあります。どこだかわかりますか? 答えは「前の字幕との重なり」です。直前の字幕を思い出してください。「これだけ?」とエリザベスが尋ねていますね。そこに「これで十分だ」とすると「これ」が連続して字幕の頭に表示されるわけです。絶対にダメというわけではありませんが、読みやすさなどを考えると字幕の重なりは避けたいところです。


では、いよいよ実際の字幕を見てみましょう。


「殺すのは惜しい」


なるほど、wasteを「惜しい」と訳出すればよかったのか!


この字幕なら、普段は人の命など気にもかけない海賊バルボッサが、エリザベスが若く美しかったことから「お前は殺さないでいてやる」という下心的なものも読み取れますよね。決して優しさからの行動だったのではなく、もしかしたら呪いがとけたあとにエリザベスをどうにかするつもりだったのでは?という恐怖すら覚えます。そうした台詞の深みまで感じさせる、すばらしい字幕ではないでしょうか。


この「パイレーツ・オブ・カリビアン」が公開された当時、高校生だった私はあまりのおもしろさに4回も映画館に足を運びました。前回の「グレイテスト・ショーマン」と同じですね。しかし同じ映画を何度も映画館で観たのは初めての経験だったこともあり、個人的にとても思い入れの強い作品です。ちなみに3作目の「ワールド・エンド」は後半のウィルがかっこよすぎたので、こちらも4回映画館で観ました。

すみません、話がそれました。 まだ観ていないという方は、ぜひ観てみてくださいね!


みなさんは、どんな字幕をつけましたか? 「これこそは!」という名訳を生みだした方は、ぜひTwitterで引用リプなどをつけて教えてくださいね。


それでは、また来月のトピックをお楽しみに!!

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