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④リサーチの仕方(言葉編)



皆さん、こんにちは。翻訳者のネルソン聡子です。翻訳業を生業としながらRAY translation Academy & Communityを運営およびAcademyの講師をしています。

この『Translation skills BASIC:翻訳スキルUPを目指して基本を学ぼう!』は、翻訳をするために欠かせない「考え方」や「スキル」を学ぶ12回シリーズのブログです。12回すべて読めば翻訳者になれる!というわけではないのですが(そういった謳い文句に出会ったら要注意です!)、翻訳の楽しさや難しさは十分に知って頂けると思います。例文を解説しながら進めますので、ぜひ実際に訳してみて下さい。

紙とペンの用意の用意はいいですか? では、レッツゴー!


4回目で取り上げるのは、3回目に続き、翻訳に必要な5つのスキル(原文理解力、リサーチ力、イメージする力、文章構成・表現力、校正力)の中の「リサーチ力」の言葉編(名前編はこちら)です。翻訳学習中の方にはイメージがつきにくいかもしれませんが、前回も書いたとおり、リサーチの質が翻訳の質に直結します。 しつこいかもしれませんが、リサーチをするうえで下記の3つは必ず覚えておきましょう。

*なぜリサーチが大事なのかを知りたい方も「③リサーチの仕方(名前編)」へ。



・検索欄に入れるワードを工夫する(日本語だけで探せる情報はかなり限られています)

・文字だけで検索しない(音声や画像、動画も活用!)

・信用性の高いリソースを見つける(個人のブログやWikipediaはなど主観が入るのでNG)


さて、これを頭に入れたうえで、今回は「言葉」のリサーチを勉強していきましょう。

「言葉のリサーチなんて、何を学ぶことが?」と思われるかもしれませんよね。検索してパッと出てくれば苦労しませんが、「日本語に訳されていない言葉」が厄介なのです。


例えばこの言葉、皆さんならどう訳しますか?



Vertical Composting Units (VCU)



これは、スコットランドで配布されている、Food wasteの回収サービスが説明された一般家庭用のリーフレットに出てきた言葉です。文章は「Food wasteが回収された後はVertical Composting Units (VCU)でリサイクルされます」という感じの意味で、原文は下記になります。


The mixed food and garden waste collected from Moray households will be transported to Keenan Recycling Ltd. in Aberdeenshire, where it will be recycled into BSI accredited compost products using state of the art Vertical Composting Units (VCU).



さあ、一緒に調べていきましょう!

調べる前に、なんとなく推測はできますよね。



「Vertical」は「垂直」でしょ?

「Composting」=「コンポスト」ね。

「Units」は、日本語でいうと……「ユニット」?



こんな感じで、なんとなくのイメージをしながらも、最初は「Vertical Composting Units 意味」と検索画面に入力してみます。結果を見てみると、なんだか関係ないHPのリンクがたくさん出てきました。次にダブルクオテーションマークを追加して「"Vertical Composting Units" 意味」と入れてみると、なんとGoogle翻訳しか表示されないという……! そこで訳されてた言葉はというと、



縦型堆肥化ユニット



さて、これを鵜呑みにしてはいけませんが、とっかかりにはなります。コンポストも「堆肥化」と出てきました。この文章は一般家庭向けのリーフレットですので、高齢者が読むことも想定すると、確かに「コンポスト」と訳すより「堆肥化」と訳したほうがイメージができそうですよね。


なるほどね〜と思いながら、次は「縦型 堆肥化 ユニット」と検索してみます。ここで、関連のあるHPがちらほら出てきました。



「縦型の発酵機」

「縦型堆肥化装置」

「縦型コンポ」

「縦型発酵装置」



そして画像も出てきたので、一緒に見てみます。「ふむふむ、こういう形をしているのね」と一通り見たら「Vertical Composting Units 」と入力して画像も検索。ですが、家庭で行っている堆肥化の画像がたくさん……。と、ここで、原文に「Keenan Recycling」という会社で堆肥化をしているという文章があったことを思い出し、会社名を追加して再検索。はい、出てきました!


Vertical Composting Units というものが画像でも分かったところで、先程検索した上記の日本語たちを改めて見てみます。すると、どうやら「Vertical」は「垂直」じゃなく「縦」と呼ぶらしい、と気づきますよね。ですが「そうらしい」で訳してはNGです。なぜ「垂直型」ではなく「縦型」なのか、までを念のため調べましょう。「垂直」と「縦」の違いを調べてみると、



「垂直」は「角度」、「縦」は「方向」



であることが分かりました。

これで「縦型」に納得ですね。



そして、最後は「Units」。これまでのリサーチでは「装置」が有力です。最初に頭に浮かんできた「ユニット」より「装置」のほうが、一瞬で具体的にイメージができます。なのですが、「Units」と複数形になっています。この複数形は活かすべきか否か。


仮に複数形にしてみると、どんな言葉が浮かんでくるでしょう?

うーん……と唸り「機器」と一瞬思いましたが、これは違いますね。自分で考え抜くのは大事ですが、文明の利器とは上手に付き合うのも大事。ここで「装置 類義語」と調べてみます。



機器、装備、機材、器具、美品、属具、エクイップメント、設備、機器



こんな言葉たちがずらっとでてきました。「設備」が一見良さそうだったので、念のため意味を調べてみると「必要な建物・機器を備え付けること。また、備え付けたもの」だということが分かります。となると、



縦型堆肥化設備?



一見良さそうなのですが、原文を見てみると「using state of the art Vertical Composting Units」で「using」が出てきます。これは、全体の設備というよりも「実際にVertical Composting Unitsを使って・・・」というようなニュアンスだと思いますので、「1つの装置」として訳出したほうが原文に近くなるのでは?と考えます。



ここまで来て、最終的な訳を「縦型堆肥化装置」にしよう!と思うわけです。



今回の「リサーチ 言葉編」、いかがでしたでしょうか?

翻訳は1人で行う作業なので、誰も助けてくれません。学習中であれば講師からの指摘で気づくこともありますが、仕事を始めると1人でなんとか最適解にたどり着く必要があります。そして、その最適解には根拠がなくてはいけません。根拠があることで自信を持って納品できます。だからこそ「リサーチ」がとても大事なのです。

次回は「知識や背景」のリサーチについてお話します。

学ぶことはまだまだありますが、一緒に頑張っていきましょう!


では、また次回の『Translation skills BASIC:翻訳スキルUPを目指して基本を学ぼう!』でお会いしましょう。





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