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"Thanks for helping the planet."


みなさんこんにちは。映像字幕翻訳者のNonaといいます。『字幕の世界へようこそ!』では、普段私が見ている映像作品から、翻訳者の視点で「すばらしい!」と思った字幕を紹介していきます。英語や字幕翻訳を学習中の方に楽しく学んで頂けたら嬉しいです。


原文の意味を少し(ときには大胆に)意訳をしているけど、その状況に最もふさわしいセンスがキラッと光る字幕を、一緒に楽んでいきましょう。



さて、今回は映画「ダウンサイズ」より。字幕翻訳を担当されたのは、種市譲二さんです。

人口過剰が問題となる地球で科学者が開発したのは、人間をミニサイズに縮小する技術でした。マット・デイモン演じる主人公のポールは、妻と共に“ダウンサイズ”を試みます。無事に縮小化が済み、小さくなった人々が生活するコロニーへ移住したポールは、新居まで車で送ってくれた案内係に背後からこう言われます。


「Thanks for helping the planet.」


直訳するなら、「地球を救ってくれてありがとう」ですね。

小さくなったことで、食事量や二酸化炭素の排出量が減るため、環境破壊などの問題を抱える地球のためにもダウンサイズを推奨していたことがうかがえる台詞です。厳密に言えば「地球を救うための手助けをありがとう」といったニュアンスですね。すでに背を向けて歩き出しているポールを呼び止めて声をかけるシーンだというのがポイントです。会話が終わって別れ際にわざわざ付けたした一言だということですね。直前に少しだけ驚きの展開があり、ポールが動揺して不安になっているシーンでもあります。

実際に話している時間は約1.7秒なので、使用できる文字数は5~8文字くらいでしょうか。


では、早速やってみましょう!


「地球を救う行動だ」



悪くはないですかね? でも、「救う」はちょっと言いすぎな気もします。それに、前述したように会話の流れで言う台詞ではないので、「行動」が何を指すのかピンとこない人もいるかもしれませんね。視聴者をおいてけぼりにしては、いい字幕とは言えません。


「地球も喜んでる」



さっきよりよくなったような気がしますね。不安げなポールをはげますように「縮小化は間違ってない、地球のためなんだ」と伝えようとしているよう感じも出ていますね。


「縮小化は英断だ」



ちょっと思い切って意訳してみました。うーん……イマイチですね。「英断」という言葉もカタすぎて作品に合っていないように感じます。伝えたい内容としては大きく逸れてはいませんが、どこかのお偉いさんが厳かな空気のなかで神妙な顔で言いそうな台詞ですよね。このシーンでしか登場しない案内係ですが、小さくなった体での注意点などを教えてくれる気さくなおじさんなのでミスマッチな字幕になってしまいますね。


では、いよいよ実際の字幕を見てみましょう。


「地球から礼を」


まさかの地球目線! 思いもよらない訳出でした。

人類の縮小化で地球の環境問題を解決できると信じているコロニー側の考えや、なんとなくションボリしているポールを元気づけようとしている案内係の優しさも反映されていますね。


さりげない字幕ですが、なるほど!と膝を打つ名訳だと思います。何気なく映画を見ていて、慌ててメモをとったくらい衝撃的でした。

ガツンと印象に残る字幕ではないけれど、訳しにくい原文をきれいに落とし込んだすばらしい字幕ですよね。こうした目立たない訳こそ、本当の「名字幕」なのかもしれません。


この「ダウンサイズ」はコメディタッチなのですが、地球が抱えている環境問題や貧富の差などの“暗い部分”をリアルに、かつさりげなく描いています。エンタメ作品として楽しめる一方で、あらゆるシーンが意味深で、地球や人類の未来について真剣に考えさせる不思議な映画です。NETFLIXで配信されていますので、ぜひ観てみてください。


みなさんは、どんな字幕をつけましたか? 「これこそは!」という名訳を生みだした方は、ぜひTwitterで引用リプなどをつけて教えてくださいね。


それでは、また来月のトピックをお楽しみに!!

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